現代文>『山月記』Ver.2009

【第一段落】

1.朗読CDで一読する。
2.語句の意味を説明する。

・博学=ひろく学問に通じていること。博識。「―多識」
・補す=職に任ずる。役につかせる。
・賤吏=身分の低い役人。
・潔しとせず=自分の良心や誇りから、受け入れにくい。自ら許し得ない。
・いくばくもなく=まもなく。
・帰臥=官職を辞して故郷に帰り、静かに暮らすこと。
・焦燥=いらだちあせること。
・豊頬=肉づきのよい、ふっくらした頬。美人の形容に用いる。
・登第=試験に合格すること。
・節を屈する=節操を屈して人に従う。
・鈍物=才知のにぶい者。
・歯牙にかけない=問題にしない。無視する。
・往年=過ぎ去った年。昔。先年。
・自尊心=自分をえらいものだと思う気持ち。また、自分の品位・人格を保とうとする気持ち。プライド。
・怏怏=不平なさま。満足しないさま。                     

3.役人になった李徴の性格について
  (1)まとめる。
《抜き出し》
・博学才穎(非常に頭がよい)
・狷介(協調性がない)
・自らたのむところが厚い(自信過剰)
・賤吏に甘んずるを潔しとしない(自尊心が高い)
↓ 《まとめ》
孤立的で自尊心が高く、他人と協調していけない性格。

 (2)官吏登用試験について。
・「科挙」という最も難しい試験。
・家柄や家庭環境、幼児教育に恵まれていなければ合格しない。
・暗記力だけでなく、詩を作る才能も試される。
・現在の高級官僚。エリート中のエリート。

 (3)役人になった理由を考える。
・昔も最も難しい官吏登用試験に合格することがエリートの証明であると思い、その後の役人生活のことは考えていない。

4.退官し試作にふけった理由をまとめる。
(1)動機は何か
「下吏となって長く膝を俗悪な大官の前に屈するよりは、誌家としての名を死語百年に残そうとした」から
・下級役人として出来の悪い上司の言うことに従うのが嫌だから。
・詩家として後代に名を残すため。

 ★役人でははいくら自分が優秀でも報われないが、詩人なら自分の実力次第で報われるから。

5.退官後の生活をまとめる。
・文名は簡単に上がらない。
・生活が苦しくなる。

6.復官した理由について
(1)まとめる。
・妻子の衣食のため。
・己の詩業に半ば絶望したため。

 (2)「半ば」絶望した
↓ 言い換えると。
・半分は詩業に未練を残していた。

7.復官後の様子について
(1)抜き出してまとめる。
・才能のない同輩の命令を受ける→自尊心が傷ついた
・怏怏として楽しまない(不平不満)
・狂悖の性が抑え難くなる(非常識でわがまま)

 (2)自尊心が傷つく体験は以前にもあったことを確認する。
・俗悪な上司の命令を聞くことが嫌で役人を辞めた時
・文名が容易に上がらなかった時。

8.旅先で発狂し行方不明になったことを確認する。

【第二段落】     

1.指名読み。

2.語句を解説する。

・勅命=天子の命令。
・恐懼=おそれおののくこと。
・畏怖嫌厭=恐れ、嫌がること。
・消息=たより。音信。連絡。

3.出会いの不自然さを確認する。

・いきなり虎が飛び出してきた直後に、虎が喋り、袁さんはその声が李徴であることに気づく。
・袁さんが虎に襲われたのも関わらず、冷静すぎる。

超自然の怪異の、読者に与える抵抗感を和らげる働きをしている。


4.李徴と袁さんの関係をまとめる。
・李徴の数少ない友達の中で、最も親しかった。
・袁惨の温和な性格と李徴の峻峭な性情が衝突しなかった。

 ★生徒の友人との性格について考えさせる。似たようなもの同士が友達になることは多 いが、全く性格の違う友達がいれば、互いにないものを求めあい衝突しないことになり、この二人の場合と同じになる。

5.李徴が袁さんに姿を見せなかったことについて
(1)理由。
・旧友の前にあさましい姿をさらしたくないから。
・袁さんに恐怖と嫌悪を起こさせたくないから。

 (2)ここに表れている李徴の性格。
・虎になっても自尊心が強い。

 (3)相反する気持ち。
・恥ずかしさを忘れるほど懐かしい。

6.袁さんの気持ち。
・超自然の怪異を素直に受けいれる。
・物事に動揺しない。落ち着いて対処できる。

【第三段落】

1.指名読み。
2.語句の意味を確認する。

・無我夢中=一つの事にすっかり心をとらわれ、他に何も考えないこと。われを忘れて   行動すること。
・茫然=ぼんやりしていて、とりとめのないようす。
・所行=行ったこと。行い。ふるまい。しわざ。
・章句=文章の章と句。文句。

3.虎になるまでの過程のまとめ。
(1)戸外でだれかが我が名を呼んでいる。
(2)声を追って走っている内に虎に変身していた。
(3)目を信じなかった。
(4)夢にちがいないと考えた。
(5)どんなことでも起こりうると思って恐れた。
(6)理由を考えたがわからない。
(7)死のうとを思った。
(8)兎を見たとたんに自分の中の人間が姿を消した。
(9)一日の内に数時間人間の心が還ってくる。

4.「だれか」の正体を考える。
・運命、神
★運命の声と解釈することもできる。
★答えが出ない場合は後で考える。

5.「理由も分からずに押しつけられたものをおとなしく受け取って、理由も分からずに生 きてゆくのが、我々生き物のさだめだ」について
(1)「自分」ではなく「われわれ」とあるのはなぜか。
・個人的なことでなく、普遍性を持たせるため。

  (2)「理由も分からずに押しつけられたもの」とは何があるか。
・人間か動物か。
・男か女か。
・日本人か外国人か。
・なぜ今の親から生まれたのか。
★すべて運命であり、決められていたことであり、合理的な答えはない。

 (3)李徴のどのような心情がこめられているか。
*自分が虎に「変身」するという異常な事態に立ち至ったことに驚き懼れながらも、そ  の運命を受け入れ納得しようとしている。
★結局「起きていることはすべて正しい」のであり、受け入れなければならない。

 (4)「さだめ」傍点がある理由を考える。
・あきらめの気持ちが表現されている。
★明らかな答えはない。

6.「自分の中の人間はたちまち姿を消した」について
(1)「人間」に傍点がある理由。
・人間としての理性を意味している。

7.「人間の心が還ってくる」ことについて
(1)その時の気持ちは。
・情けなく、恐ろしく、憤ろしい。
(2)その理由は。
・人間の心で虎としての残虐な行いを見て後悔するから。

 (3)「どうして以前人間だったか」と考えることが恐ろしい理由。
・次第に完全な虎に近づいているから。
(4)「古い宮殿の礎」「土砂」の比喩は。
・古い宮殿の礎=おれの中の人間の心。
・土砂=獣としての習慣。
(5)「人間の心がすっかり消えてしまう」ことに対する気持ちは。
・しあわせ。→虎としての残虐な行為に悩まなくてすむ
自分の不可解な運命について悩まなくてすむから。
★本当の「しあわせ」ではない
・このうえなく恐ろしい。悲しい。切ない。→人間であることが終わるから。 人間への未練。 運命に引きずられる不安

8.「おれ」と「自分」の使い分け
・自分を客観的に語ろうとしたときに「自分」を、
主観的に語ろうとしたときにに「おれ」と表現している。

「人間に還る数時間」が次第に短くなり「獣としての習慣」が大きな意味を持ってく   る過程で、「おれ」が多用。

内部の獣(虎)に自分が支配されている時には「おれ」を用いている。

【第四段落】    

1.指名読み。
2.語句を確認する。

・息をのむ=一瞬、非常に驚く。
・名を成す=有名になる。ある事をなし遂げて声価が定まる。
・業=学問・技芸。自分のなすべき仕事。
・遺稿=故人がその生前に書いておいた未発表の原稿。
・巧拙=じょうずなことと、へたなこと。
・産を破る=財産を失う。破産する。
・朗々=声などが大きくはっきりして透き通っている様子。
・意趣=意味・内容。
・卓逸=際立って優れていること。
・自嘲=自分で自分を軽蔑し、あざけること。
・狂疾=気の狂う病気。精神病。
・災患=外部から受ける災いと、心中の憂い。内憂外患。
・渓山=谷と山。

3.李徴が詩の伝録を依頼したが、その理由(抜き出し)。
・自分が生涯執着したものを後代に伝えたい。
・自分が生きていた証を残したい。

4.袁さんの印象をまとめる。
(1)袁さんの印象は。
・格調高雅、意趣卓逸。
・才能は第一流に属している。

 (2)疑問点は。
・第一流の作品になるには、どこか微妙な点において欠けている。

 (3)「微妙な点」とは何か。(テキストには書かれていない。あくまでも「読み」)
★一流になることの難しさがある。
★李徴は後世に名を残す詩人になることには執着←→そのための研鑽や努力は不十分。
★李徴の詩には「人間李徴の総体」が映し出されていたはず
★のちに虎とならなければならなかったものがどこかに影を落としていたはず。

5.自嘲的になった理由。
・虎と成り果てても、詩に未練があるから。

6.李徴は自分のことをどのように表現しているか。
・詩人になりそこなって、虎になった哀れな男。
★李徴を一言で言い表した言葉。

7.漢詩ついて
(1)訳す。
偶然、精神病によって人間以外のものになってしまった。
災いが襲いかかって避けることもできなかった。
今では、この爪や牙に誰が歯向かうだろうか。
当時は、私も君も二人とも評判が高かった。
私は虎になって雑草の下にいるが、
君はすでに車に乗って順調に出世している。
この夕方谷山の明月に向かって、
私は詩を吟ずるのでなくほえ叫んでいるだけだ。

 (2)この段階で李徴は虎になった理由をどのようにとらえているか。
・偶然の精神病による。

【第五段落】     

1.指名読み。
2.語句の説明をする。

・粛然=おごそかなさま。また、かしこまるさま。しずかなさま。
・倨傲=おごりたかぶっていること。
・尊大=たかぶって偉そうにすること。横柄。傲慢。
・羞恥心=恥かしく思う心。はじらいの気持。
・郷党=郷里。同郷の人々。
・鬼才=人間のものとは思われないほどすぐれた才能。また、その才能を持った人。
・切磋琢磨=玉・石などを切りみがくように、道徳・学問に勉め励んでやまないこと。また、仲間どうし互いに励まし合って学徳をみがくこと。
・俗物=名利にとらわれてばかりいるつまらない人物。無学・無風流な人。
・伍する=仲間に入る。同等の位置にならぶ。肩を並べる。
・珠=才能。
・空費=むだに使うこと。
・警句=人生・社会・文化などについて真理を簡潔な中に鋭く表現した語句。
・弄す=もてあそぶ。
・危惧=あやぶみおそれること。不安心。気がかり。
・専一=一つの物事だけを一生懸命にすること。

3.キーワード 
・臆病な自尊心、尊大な羞恥心

4.「臆病な自尊心」「尊大な羞恥心」について
(1)それぞれの意味。
・臆病な自尊心=自尊心はあるが、失敗を恐れて、臆病になる。
・尊大な羞恥心=羞恥心があるが、隠そうとして、尊大になる。

 (2)「臆病」「自尊心」「尊大」「羞恥心」の関係は。
・臆病な(−)[態度] 自尊心(+)[心理]
・尊大な(+)[態度] 羞恥心(−)[心理]
★矛盾した心理と態度が一緒になっている。
★表裏一体の自意識のねじれた形。
★自意識が自分に向かう場合→臆病な自尊心
★他者に向かう場合→尊大な羞恥心

 (3)「己の珠に〜すべてだったのだ。」の中から、(−−)臆病・羞恥心、(++)尊大・自尊心に当たる表現の抜き出し。
(--)@進んで師に就いたり、求めて詩友と交わって切磋琢磨に努めたりすることをしなかった。・・・(内面性・対人関係)
A己の珠にあらざることを恐れる(がゆえに)・・・(才能への危惧・不安)
Bあえて刻苦して磨こうともせず・・・(努力不足・怠惰)
C才能の不足を暴露するかもしれないという卑怯な危惧・・・(才能への危惧・不安)

  (++)@(かといって)俗物の間に伍することも潔しとしなかった。・・・(内面性・対人関係)
A己の珠なるべきを半ば信ずる(がゆえに)・・・(自信過剰)
B碌々として瓦に伍することもできなかった。・・・(内面性・対人関係)
C憤悶・・・(アンバランス)
D刻苦をいとう怠惰・・・(努力不足・怠惰)

5.李徴がこの段階で「虎になった」と考えている理由。
(1)「人間は誰でも猛獣使いである」について
@猛獣とは。
・性情

  A李徴の場合は。
・臆病な自尊心と尊大な羞恥心。
・相反する心。

  B「猛獣使い」とは。
・相反する心をコントロールし抑制する。

  C李徴の場合は。
・飼い太らせてしまった。

 (2)猛獣を飼い太らせた理由。
@自尊心や羞恥心、尊大や臆病が中途半端であった。
・「半ば」に注意する。
・詩業をあきらめた時と同じである。
Aその根底には、努力を厭う怠惰があった。
・つまり李徴は怠け者であった。

6.虎になった今も、かつて人間であった時も、誰も自分の気持ちを分かってくれなかった
・第三段の「この気持ちは誰にもわからない」と重なる。

【第六段落】     

1.指名読み。
2.語句の意味を確認する。

・恩幸=(神や天子が与える)特別のいつくしみ。
・慟哭=声をあげてはげしく泣くこと。
・意に添う=気に入る。満足する。
・ねんごろ=ていねいであるようす。
・咆哮=(猛獣が)さけびほえること。

3.「李徴の声が言った」の表現に注意する。
・「李徴が言った」ではない。
・李徴自身の言葉ではない。

4.二つ目の依頼について
(1)依頼したこと。
・おれは死んだと告げてほしい。
・妻子が飢え死にしない様に援助してやってほしい。
(2)「死んだと告げてほしい」と依頼した理由は。
・妻子に、生きているかもしれないという期待や、夫が虎になってしまったという驚き   を起こさせないため。
・虎になったことを知られると、自尊心が傷つくから。
(3)「このことを先にお願いすべきだったのだ」
・妻子の生活の面倒をみてもらうこと。

人間としての当たり前のことができない自分を今になって自覚している。

自嘲的な調子
・人間性の欠如に気がついて今更ながら自らを恥ずかしく思っている。

5.三つ目の依頼について
(1)依頼したこと。
・丘の上から虎になった自分の姿を見てほしい。
(2)理由。
・袁さんに再び自分に会おうという気を起こさせないため。
・自尊心や羞恥心を捨て、ありのままの自分を見てもらおうと思った。
★第二段で姿を見せなかった「臆病な自尊心」が消えた。
★虎となり果ててやっと素の自分をさらけだせるようになった。

6.李徴が咆哮した気持ちを考える。
・袁さんに会えた喜び。
・人間への未練を捨て切った。
  ★未明の残月の光の下で始まった物語
  ↓
光を失った暁の月を仰いで咆哮する虎の姿で閉じられている。

7.月の光は何だったと考えられるか。
李徴の人間としての理性

【まとめ】

1.「虎」のイメージをあげる。
李徴が変身したのが他でもない「虎」であることを確認する。
「狼」や「獅子」や「龍」や「鼠」ではない。

2.「変身譚」について
「変身譚」それ自体が現実的な描写方法ではなく、「象徴的」な表現方法。
象徴的に何かを表現している。

「李徴」が「虎」に「変身」することはこの物語にとって絶対の条件。

「原因・理由」が存在するはずがない。

「原因・理由」らしきものが語られているが、それは「事実」ではなく、「李徴」がそう考えていたという内容でしかない。

カフカの「変身」
・グレゴール・ザムザがある朝「毒虫」に変身。

周囲の人間が変貌し、人間関係が崩壊していく。日常生活の繰り返しで隠されていたものが「ある男の変身」によって明るみに出されるということ。

中島敦「山月記」
・李徴が「虎」に変身
↓ 見えてきた物は何か。
「李徴」自身が見えてきている。「李徴」が人間として生きていたときには見る事が出来なかった「己」の本来の姿が、変身によって露にされてきた。

「李徴」はそういう「己」の本来の姿の見えてくる過程を語っている。

なぜ変身したかが問題ではなく、変身して自分の何が見えてきたかが大切な問題。

『山月記』は李徴の自己認識の深まりの過程をみていく作品。

追記
唐の皇室=漢民族出身ではない(鮮卑族出身)。
隴西の李氏出身であるという系図をでっちあげる。

隴西の出身であることを口酸っぱく強調した『李白』
『李白』と名乗ることは、彼が唐の皇室の縁戚であることを意味する。

皇室がでっちあげた系図の中に李白の父親は自らに出自を紛れ込ませた。

李白の父親はどこの国の人かわからない。胡人、チュルク人ではないか。
異民族の父親が、シルクロード貿易で栄えていた隴西にやってきて、李姓を名乗ることになる。

李白…難関国家試験の科挙に合格できなかった。

隴西…西域との境界線上にある。
『西遊記』で三蔵法師が妖怪とたたかいながら経典を求め彷徨い歩いた場所。

李徴という人物が、妖怪変化の棲む辺境の土地から科挙に合格して都にでるまでの苦労がいかほどであったか。
その結果、江南尉として地方へ飛ばされたときの落胆はどれほであったか。

 

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